JINGサイト共同で行った「3缶発売記念スタンプラリー」全カキコ達成の報酬として頂きましたvv
アンゴスチュラからみた、「ザザ編」です。

  「不変なるもの」

バーーッン!!
銃声が挌技場に木霊する。音源は、名警備員として名高いアンゴスチュラ家の老体の孫である。
「勝手は許さんぞっ。お・・お前がどうしても公開処刑を強行するというのなら…」
ぶるぶると震える膝。そして、腕、声。全てが、アンゴスチュラを小心者と表しているようで。実際、彼の小心振りはザザの町でも知らぬものはいないというほどの有名なことである。だからといって、彼がそのことで問い詰められたことはなかった。いくら「小心者」といってもそれは彼が大の大人たちに混じって伯爵家の警備をしていて、その上での認識だからである。彼そのものは、別に小心者でも何でもないのだ。
自分の声が震えていることに気づいている本人は、なんとかして早く鳴りたてる心臓を落ち着けて冷静になろうと努めた。
『そ、そうだ。こんなところで、騒動を起こしてはデュボネ夫人もそして何より、今怪我をして休んでいるステア様すら出てきてしまう。それは何としてでも防がないと』
一通り気持ちを落ち着かせて、アンゴスチュラは警備員の顔でバッフルに向かった。その時も、実際は心臓がばくばくいって、手だって足だって震えてもおかしくない状態だった。それでも、愛の力は強いのか外見には全く表れていなかった。
「この少年は我々が正当な手続きのもとに裁くっ!」
『うわーっ! こえぇよぉ〜……』
強面のバッフルを前に、冷静に言葉を発しているアンゴスチュラの心中がこんなものだとは多分誰も気づいていなかった。
伯爵夫人に攻撃を加えた(ように見えた)極悪人はヒューヒュー族に囲まれて、そして後ろにはアンゴスチュラが付いてくるという状態で、舞踏場から出て行った。
そうして、舞台の上ではバッフルが憎憎しげに、観客席では「悪魔」というレッテルを貼られた少年を嫌悪の念を持って見ていた。

「……すまんな。バッフルという奴は、どうも暴力によるところが多い奴で。君にも、つくらなくていい傷をさせてしまったようだ」
後ろから付いていきながら、アンゴスチュラはそのよそ行きのいつもより低めの声でもって、極悪人に声をかけた。
通常、先ほどのような背徳をした輩に声をかけることなどしないのだが、今のアンゴスチュラから見れば、余程バッフルの方が悪人に見えていた。
それは何故か? 理由はいたって簡単。彼のせいで、ステアが怪我をしたのだから。
まぁ、しかしその後、愛する女性を取られたのは男として悔しくてならなかったが。
「……」
話しかけられた極悪人は、一言も返さない。それも、明日処刑されると思えば当然のことだろう。とアンゴスチュラは考えた。
なんと言っても、その時ジンは仮面をかぶっており表情が伺えなかった。憶測で物事を判断するのは危険極まりないが、場合が場合ならそうとしかしようがない。
ガチャリと重い音を立てて、牢屋の扉を開く。そして、そこにジンを入れると、もう一度鍵をかけようと手をかけた。しかし、そこでアンゴスチュラは手を止めた。そして、ヒューヒュー族の一人に医務室から、救急箱を一つ借りてくるように頼んだ。
ヒューヒュー族が出て行った後、アンゴスチュラは一人で話し始めた。
どうしてなのか理由はわからない。
今、牢屋の中に居る少年が自分と、さほど変わらない年齢だったからかもしれない。
いや、祖父に「伯爵の若かりし頃と、うりふたつ」ということを聞き及んでいたからかもしれない。
いや……。彼が、ステアと戦った相手だった…からかもしれない。
ともかく、様々な要因が考えられるほど、この少年はザザの、強いてはアンゴスチュラに風を巻き起こしていたのだ。
「…そのデスマスクには製作秘話があるんだ」
ジンのかぶっている仮面を指差して、アンゴスチュラが言う。
「そのデスマスクを作った人物は、確か、これを伯爵家に貢いだ時点で処刑されている。その理由というのが、どうやら彼がその仮面のモデルに『伯爵の死に顔を使った』からという。その罪で彼は、自分の作ったその仮面をかぶって死んでいったらしい。もっとも、その伯爵の顔を使った云々は証明されなかったんだが」
喋りながら、やけに饒舌(じょうぜつ)になっている自身に気づきながら、またよそ者にこんなことを話さなくともいいと感じながらも、喋りつづけていた。
「……」
やはり死に顔しか見えない極悪人は喋らない。
間に困ったアンゴスチュラは、さてどうしようかと視線を巡らせた。
すると、廊下の向こうから明かりを点したヒューヒュー族が来るのがわかった。
「あぁ、ありがとう」と、その救急箱を受け取ると早速手当てをし始めた。
手当てをするというほどの怪我でもなかったのだが、そこは自分の注意不足によって怪我をしたと思えばこそだった。
消毒をして、ばんそうこうを貼る。それだけの手当てだった。
その時、手当てをし終わったと同時にアンゴスチュラの祖父である、老アンゴスチュラが来た。
「まさか、お前があんなことをするとはな」
こちらも仮面を付けていて表情は伺えない。
しかし、その声にはどこか寂しそうに聞こえたと、後からアンゴスチュラは思った。
その思いがどこから来るのかは、わかるようでいて結局わからなかった。
デスマスクをした少年も、その顔を老アンゴスチュラに向けていた。しかし、言葉は何も発さなかった。
「……。寝づらいとは思うが、明日の朝までの辛抱だ。ゆっくり休んでくれ」
静かにそういうと、老アンゴスチュラはその場から去っていった。そして、廊下に出るとそこに留まった気配を感じた。つまり、彼は今夜一晩、極悪人とされているジンを監視するのであった。
その間にも、先ほどから牢屋の明かりを点けていたヒューヒュー族が明かりをつけ終わったようで、入ってきた当初よりその場は明るくなっていた。
アンゴスチュラは……といえば、どうにもすることがなくなったのでその場から去ろうとした。
今日の自分の仕事はこれまでだ。と、救急箱を持って体の向きを変えたとき、後ろ腕を引かれて振り返った。すると、引っ張っていたのは、先ほどから一言も喋っていない少年ということを認識する。
「……何か?」
一応聞いてみるが、やはり何の答えも返ってこなかった。不審に思いながらも、この場に留まるわけにもいかないので、掴んでいる腕を外そうとした、その時。
牢屋の中の少年が、仮面をとってニヤリと笑ったのが見えた。

「……ねえ、アンゴスチュラ…」
ステアの大きな瞳がこちらを向いている。
いつものラフな格好ではなく、可愛く着飾ったステア。
「……あ…っ。ステア様、何か?」
その可愛さにクラクラとしたが、理性でもって持ち越して尋ねる。
「もうっ! アンゴスチュラったら、"様"はいらないって言ったでしょ?」
「え……。でも、あの……」
怒った顔がキレイ見えて、それに見惚れそうになった。それでも、ステアの言ったことに何か言葉を返さなければと思考を巡らせたが、ステアの言っていることが理解できずにいた。
『え…えぇ〜っ! 一体、いつ"様"をとっていいなんて言ったんだぁーー』
などと、驚きの叫びを心で上げていると知ってか、知らずか。ステアは、またその可愛い口を開いた。
「もしかして、アンゴスチュラったら私の言ったことを信じていないの?」
驚きと悲しみを併せ持った、その表情。そして、言葉により混乱を極めるアンゴスチュラ。
『お、おれは一体何を言われたんだ……?』
「私が……、私があなたのことを『好き』と言ったのを覚えていないのね」
顔を少し、赤らめてうつむき加減にそう告げる。その可愛さと、思いもかけない告白二乗。これで、アンゴスチュラの若いハートはバラ色に染まった。
『あぁ!! 素晴らしきかな、人生!!!』
万歳をしたい気持ちをぐっと抑えて、にやける顔をぐっと抑えて。
でも、そこでアンゴスチュラに『ま、まさか。これって夢じゃ……』という不安が込み上げてきた。こんなに都合の良いこと、幸薄そうな彼の顔から判断するにあまりないように思われる。本人も自分の運のなさは知っているのか、『もし夢だとしても、ここまでいい夢、そうそう見れるもんじゃないし、もっと堪能しよう』と結論付けた。
そうなると、俄然この状況を楽しもうとアンゴスチュラは思い、早鐘のように拍動を続ける胸をぐっと静まらせて言ってみた。
「ス……ステア…」
呼び捨てにすることなんて、早々ないので意識して呼ぶときはとても緊張する。
「なぁに?」
と、ステアはそれにニッコリと答える。
『あぁ! もう、おれこのまま死んでもいいかも』
そう思わずにはいられないほどの、おいしい状況。
腕を伸ばして、ステアの体を包み込む。そして、ぎゅっと抱きしめれば、ステアの方も抱き返してきた。
『あぁ…。至福』
感激して、涙すら出そうになった。
すると、そこでペチペチとステアが頬を叩いてきた。
その様もとても可愛くて、アンゴスチュラの顔は今までより緩んでいた。
「アンゴスチュラ。明日は"私"の言うことを聞いてね」
ニッコリと笑って、可愛くそう言われてしまえば。
『えぇ、ぜひとも。地球が逆さまになったって、言うことを聞きます』
と、こくこくと頷くしかなかった。
『あぁ…。おれって本当に幸せものだ』
幸せに骨の蕊(ずい)まで浸かっているアンゴスチュラ。
その後も、本当に仲睦まじい恋人たちが、砂糖を吐きまくれるほどの時を過ごしていた。
しかし、幸せはいつか終わるもので……

牢屋の中で、にやりと笑った王ドロボウはアンゴスチュラの力を失った体を支えた。
音がすれば、監視しているあの老人が来てしまうからである。そして、その場に若き警備員を寝かせると、「まさか、ここまで効くとはなぁ……」とジンは手の中に転がる夢玉を見ながら呟いた。
以前、騒動を起こして盗んできた夢玉。一体、どんな夢が入っていたのかはわからないが、少しばかり加工をして粉末状にしたもの。それを、アンゴスチュラに嗅がせたのだ。
「さすが、カンパリ…といったところか」
もう一度、呟くとジンは早速アンゴスチュラが持っている、牢屋の鍵と手錠の鍵を抜き取った。
「う…ん……」
ごろりと寝返りを打つアンゴスチュラに驚きながらも、その顔を見て暫く覚めそうもないことを確認。幸せそうに緩んだ顔を見る限り、いい夢を見ているらしい。
そそくさと服も交換して、先ほどとは全く逆の立場にする。
牢屋の中には、ジンの格好をしたアンゴスチュラ。
『さてと。じゃあ、最後の仕上げとしますか』
そういうと、ジンは眠っているアンゴスチュラの頬をピチピチと叩いて目を起こさせた。
すると、アンゴスチュラがニタリと笑ったのが見え、ジンは戦慄を覚えた。しかし、その気持ちをぐっと抑えて、眠気眼なその少年に向かってジンはその特有の説得力がある声で呟いた。
「アンゴスチュラ。君は、明日"誰か"の言われた通りに行動しなければならない」
話術とでもいうのであろうか? そう断言すると、ジンは最後にポケットから小さなビンに入った液体をアンゴスチュラに飲ませた。
それは、先ほどまで共に戦っていたギンジョウが、「まぁ、飲めや」と勧めてきた彼の酒である。
こちらも、実際ジンは飲んでいないのでどれほどの強さかは見ていないが、飲ませた途端再び眠りに落ちたところをみると相当強かったようだ。
そこまで、細工をしてふと視線を感じて目を上げれば、ヒューヒュー族の一人がこちらをじっと見ていた。
それに、ニッコリと笑ってジンは「しーっ」と人差し指を口に当てて言った。ヒューヒュー族の方も、それを真似て「シーっ」とやっていた。
くすりと、笑ったままジンは何食わぬ顔で牢屋から出て行った。出たところで、仮面をしていないジンはバッチリと老アンゴスチュラと目が合った。
すると、またにやりと笑い彼を縛り付け、挙句ギンジョウの酒を飲ませ、その場を去った。
その後、王ドロボウによって眠らされた二人が目覚めたときには、すでに「ヴィンテージ・スマイル」が盗まれた後だった。

「あの少年が王ドロボウだったのじゃぞ!」
「急げっ!ヴィンテージ・スマイルが危ないっ!!」
祖父の捲くし立て上げるその声に、至福の夢から突如現実に戻ってきたアンゴスチュラ。そして、その言葉の重大さに、夢の終焉を残念に思うことなく駆けていた。
どこまでも、忠義に厚く育った少年である。
『あぁっ! 大変だ。伯爵夫人の仮面が……!!』
自分の間抜けさを呪いながら、空のショーケースを見た。
『あの大切な…次の世継ぎが決まったときに必要となるあの仮面が……』
「どうすんだよ、おれぇっっ!!」と叫びだしたい心持で、館内を探し回るが、そこでふと気づく。
ショーケースの仮面を取るには、一度伯爵夫人の部屋を通らなければならない。今、伯爵夫人の部屋には……?
『ス、ステアがいるんだったーーーっ』
頭の中は、パンク寸前になるほどの出来事に次ぐ出来事。
しかし、愛する女性が危険に晒されているとあっては、男が黙っちゃいられない。
一応、周りの者に言わなければと「そうだっ!! 伯爵夫人は? お嬢様はご無事かっっ!?」と、わざとらしく行って階段を上っていく。
そして、普段なら入ることすら許されない伯爵夫人の部屋の前につく。
ノックをして、扉を開くと美しい女性が二人。朝日を浴びて微笑んでいた。
その微笑みは、何者にも例えることが不可能なほど美しかった。
「ヴィンテージ・スマイル(極上の笑み)」の名を授けられた、あの仮面。正にその表情であった。
「大丈夫です。ヴィンテージ・スマイルは盗まれておりません。今はああして、伯爵夫人がお着けになっておられます」
だから、そう祖父に告げたとき、彼は心からそう思っていた。
後から、あの微笑みは仮面などという"人工的"なものでは決して表すことができないと気づくのだが。
仮面舞踏会の仮面と伯爵夫人のかぶっていた仮面と。
その二つの仮面の違いが、今のアンゴスチュラには易く理解できた。
仮面は表情を隠すのではなく、より明らかに表情を表すためのものであるということである。
そうして、「あの仮面が必要ない」と告げた伯爵夫人の顔を見たとき、初めてアンゴスチュラは王ドロボウに感謝をした。

一年後、昨年の騒動の終焉と同時に仮面「武闘」会が終了し、再び舞踏会が開かれることとなった。
その年は、今までの舞踏会よりも武闘会の時よりも、大勢の人がザザの町に集まった。
それは、ある噂が一年のうちに大陸中に広がったからである。
ザザの伯爵夫人の微笑みは、ヴィンテージ・スマイル以上の美しさあるということ。
そして、その娘のステアが最近、めっぽう美しくなったということである。
舞踏場に集まった、たくさんの人の中でアンゴスチュラは忙しなく働いていた。
そして、その合間をぬってはステアを見た。
彼は、他の誰よりも彼女の変化に気づいていた。
前よりも活き活きとした彼女の美しさ。それを、一番敏感に気づいたのである。
それは、一重に彼がいつもステアのことをみていたからなのだが、それ以上に彼女に心の中にある恋心が痛いほどわかったからでもある。
引く手数多(あまた)な申し込みを「心に決めた方がいる」ときっぱりと断りつづける彼女。そんな彼女の思い人には適わないと知っていながらも、未だに彼女に思いを寄せているアンゴスチュラ。
それと同時に、巷では変わったと噂の彼女だが、根本的な彼女の優しさや強さが変わっていないこともわかっていた。
それは、自分の恋心を大切に育む美しい姿よりも、より一層彼に『愛しい』と感じさせたのだった。
彼の恋が報われるかどうか。
それは、彼女の椅子に置かれた仮面を見れば一目瞭然であった。

 

予想外に、カンパリまで絡んできて楽しいお話に仕上げてくださいました。アンゴスチュラの妄想極まりない夢が、微笑みを誘います。ステアがジンを想っているのはわかっている。それでも自分は、陰から、姫様を見守りつづける…素敵じゃないですかぁ*アンゴスチュラってやっぱいい奴っ!(笑)

JING小説がいっぱい!くまごろさんのHPにお邪魔しちゃいましょう。
Gotham City's assembly report